「上の前歯がガタガタしている」「上の前歯が斜めに生えてきた」「下の前歯が並ぶスペースが少ない。」
そんな5～9歳お子さんの歯並びに悩まれて、相談に来られるケースが非常に増えています。
今回は、「上のガタガタと下の歯が並ぶスペースが少ない」というのが気になる9歳の女の子の歯並び相談でのやり取りをご紹介します。
実際に小児矯正するなら、気になる質問に詳しく説明していきます。
同じように悩まれている方の参考になれば幸いです。
患者様情報
| 年齢 | 9歳 |
| 性別 | 女性 |
初診時の画像診断
上の前歯が斜めに生えてきて、上あごが小さいので、大人の歯が生えてくるスペースが少ないため右上の前から2番の歯が内側から生えてきました。また、下の歯も並ぶスペースが少なく、今後さらに大人の歯に生え変わる予定がありますが、大人の歯がきちんと並ぶためのスペースが十分ではないことも分かります。正面から見るとほとんど下の歯が見えない「過蓋咬合（かがいこうごう）」で横から歯並びをみてみると出っ歯の歯並びになっています。
ご相談のきっかけ
- 上の前歯がガタガタしている
- 下の前歯が並ぶスペースが少なそう
生え変わりが進むにつれて上記の点が気になり、「このままで大丈夫なのか？」・「将来、見た目はどうなるのか？」と不安に感じられたことが来院の理由でした。
見た目も気になるため、もし矯正治療を始める場合には、
- 小児矯正の必要性
- 治療中の負担・通院間隔
- スポーツや食生活での制限はあるのか？
- 治療の期間はどのくらいか？
といった点も知りたいとのことで、ご相談に来られました。
患者様との実際のやり取り
前歯がガタガタしてきて心配なんです。上も下もスペースが狭くて、このまま大きくなるとどうなるのかなと…。
実際にお口の中を拝見すると、まず 上の前歯には強い重なり が見られ、特に右上の2番目の歯が内側に入り込む “クロスバイト（交叉咬合）” という状態になっています。。これは、上あごの幅が十分に広がっておらず、歯が並ぶためのスペースが全体的に不足しているサイン です。
また、下の歯並びもスペースが不足しているため、少しガタガタ（叢生）した歯並びになっています。
上下ともに歯がきれいに並ぶためのスペースが少ないため、前歯が正しく噛み合わなくなっており、しっかりと食べ物を前歯で噛み切ることが難しい状態です。それだけでなく、歯が重なっている部分は歯ブラシが届きにくくなるため、虫歯や歯肉炎・歯周病のリスクも高まりやすくなります。 特に生えてきた直後の歯は虫歯になりやすく歯並びの影響を受けやすい点も注意が必要です。
このまま自然に治ることはありますか？
現在9歳という年齢を考えると、ここから 自然にきれいな歯並びへと改善していく可能性は非常に低いです。
というのも、上あごの成長は 5～8歳がラストスパート で、8〜9歳になるとほとんど成長が終わりかけているからです。いまの状態のまま思春期まで進むと、よりスペース不足が強まり、将来的に抜歯矯正が必要になる可能性もあります。
今スポーツの部活をしているんですが、矯正しても大丈夫でしょうか？痛みがひどくて競技に支障が出たりしませんか？
顎顔面矯正 や プレオルソを用いた小児小児矯正は基本的に普段の生活を妨げることはなく、スポーツの制限も特に必要ありません。 食事についても、避けなければいけない特別な制限はなく、これまで通りの食事を続けていただけます。
ただし、あごの成長を促すための 固定式の装置（取り外しができないタイプ） を使用する場合、装置を入れた直後はどうしても少し食べづらさや話しづらさを感じることがあります。これは装置に慣れるための一時的なもので、ほとんどのお子さんは自然に適応していきます。
実際にこれまで多くのお子さんを担当してきましたが、「慣れなくて続けられない」 という理由で装置を外すことになったケースは 一人もいません。 大人の方よりもお子様は想像以上に順応が早いので、ご安心していただければと思います。
通院頻度はどれくらい必要ですか？
お子様の小児矯正における通院頻度は、使用する装置によって多少異なりますが、一般的には 1か月に1回程度 の通院が必要とされています。
ただ、最近は習い事や塾、部活などでお子様のスケジュールが非常に忙しく、毎月の通院が負担になるご家庭も少なくありません。
そのため当院では、治療の質を保ちながらも通いやすさも重視し、約2か月に1回の通院 で治療が進められるよう工夫しています。頻繁に通うことが難しいご家庭でも続けやすい体制を整えておりますので、比較的無理なく治療を続けていただけます。
装置をつける期間はどれくらいですか？
装置を実際に使用している期間は約2年〜3年ほど になることが多いです。その後は、永久歯への生え変わり観察していく期間が さらに1年〜2年ほど 必要になります。
その期間で、お口周りの癖や機能の改善をはかるためのトレーニングもしていきます。
まとめ
本来、上あごの成長時期から考えると 5～7歳頃 が小児矯正のベストタイミングです。そのため、もし可能であればその時期にご相談いただけると、より負担が少なく、より効率的に治療を始めることができます。
ただ今回のような9歳でも、上あごの成長がほぼ終わりかけている時期ではありますが、「まだ拡大が可能なタイミング」 です。この時期に適切な小児矯正を行うことで、歯が並ぶためのスペースを確保し、将来の本格矯正（2期治療）をよりスムーズに進めることができます。
また今回のお子様のように、
- 顎が小さくスペース不足による叢生（ガタガタ）
- 過蓋咬合（咬み合わせが深い）
- 出っ歯傾向（上の前歯が前に押し出されやすい）
といった問題が重なっている場合、そのまま放置すると次のようなデメリットが生じる可能性があります。
- 歯並びの乱れがさらに強くなり、将来 抜歯矯正の可能性が上がる
- 深い咬み合わせによって、前歯がすり減ったり、下の前歯が上の歯ぐきに当たって傷ができる
- 出っ歯が進行し、転倒などの際に 前歯を折るリスクが高まる
- 見た目のコンプレックスにつながり、思春期の時期に 心理的負担が大きくなる
ただ、スポーツをしているお子様でも、1期治療で使う装置は運動への影響が少なく、食事制限もありません。通院も 2か月に1回程度 のため、普段の生活を大きく変えることなく続けやすい治療です。
「このまま様子を見てもいいのかな…」と迷われている方ほど、早めの相談が将来の歯並びに大きく影響します。
9歳は、まだ間に合う大事な時期。
気になる点があれば、一度お子さんのお口の状態を確認してみることをおすすめします。
【執筆・監修者】
たむら歯科・こども矯正歯科 院長
田村 光正 （歯科医師）
滋賀医科大学精神科 客員
睡眠歯科学会会員・顎咬合学会会員・即時荷重研究会会員
口育士
